皆さん、こんにちは。ReadSpeaker MAGAZINE 編集部です。
前回はメタバースとそこでの購買体験がどのようなものになるかを解説しました。引き続きメタバースでの購買体験についてお話しますが、今回はAI音声がどのような付加価値を我々にもたらすのかを少し踏み込んで考察してみたいと思います。
前回のReadSpeaker MAGAZINE vol.1はこちら
AI音声で購買体験に付加価値
メタバースで果たして音声は他ユーザーやAIとのインタラクションを実現するための主要なチャネルになりえるのか?
我々ReadSpeakerは可能であると答えます。なぜなら音声以外のチャネル(例えば体の動きによるボディジェスチャーなど)はまだまだ技術の改革が必要だと考えているからです。今の技術ではメタバース内でユーザーの腕や脚といった体のパーツをレンダリング(ここでは仮想空間内で表示させることと意味します)させることはできません。それもそのはずで、やろうとするとリアルで肘、足首、指といった部位のいたるところにセンサーを装着する必要があります。それは現実的ではないですよね。従って、ソフトウェア側では装着者の動きを検知する方法も無く、メタバース内に投影させることができません。
キーボードで文字を打つ、マウスをクリックする、液晶をタップ・スワイプするなど、現代のデジタルにおけるインタラクション方法をというのはメタバースでは存在しなくなると言われています。いつか高精度化されたセンサー技術によって、指先のかすかな動きも検知してくれるようになったり、センサー付きの専用グローブやボディスーツ的なものが開発されるかもしれませんが、現時点では音声がメタバース内のシステムとやり取りをする最も簡単な方法であると考えています。
それでは具体的にAI音声がどのように我々をアシストしてくれるのか、メタバース内での決済方法という例を使いながら考察したいと思います。
典型的なECサイトでは、クレジットカードの詳細を入力するか、『PayPal』または同様のサービスを利用して決済手続きを進めることが一般的です。また、生体認証 (指紋など) や 2段階認証など、セキュリティ対策を介する必要があることがほとんどです。
となると、メタバース内にはキーボードもタッチスクリーンも無ければ、どのように決済の安全性を担保すればよいかという疑問が残ります。
そこで、我々ReadSpeakerは声による生体認証を活用することが解決の糸口になるのではと議論しました。すでに、ユーザー固有の声質をアイデンティティの判別材料として活用する技術はボイスバンキングやコンタクトセンターといった市場で活用されており、『Amazon Alexa』と『Google Assistant』を用いた声紋認証にも今後期待が寄せられています。個人情報のセキュリティが重要な金融ですら海外では一部この取り組みが行われていますから、メタバースで同等のことを行うのは夢ではありませんね。声というツールは生体認証の中でも非常に有用なのです。
また、声紋認証は音声によって顧客を識別できる技術なので、認証デバイスとしての役割以外にも、パーソナライズサービスの機能も兼ね備えることが可能です。例えば、とあるお客様がインターネット上でいくつかの商品を閲覧したとします。数日後、メタバース内のバーチャルストアに来店した際に声で識別させることで、興味のある製品を目の前で展開させる、といったようなことが可能になると考えています。
AI音声とブランディング
音声がメタバース内でのコミュニケーションチャネルとしてうまく機能するためには、人間が発する自然言語を理解し、音声でユーザーと対話ができるAI音声といった人工知能システムが必要になります。従って、小売企業がこのようなシステムをどのように活用して自社ブランディングの施策を行うかはとても重要な検討事項であると思っています。以下に、AI音声を活用したシナリオまたは想定事例をご紹介していきます。
- ブランドのAIバーチャルキャラクター
メタバース内では有名人を雇う必要はありません。代わりに、店舗などで対話型AIを利用したオリジナルのAIバーチャルキャラクターの活用がより目立つのではないでしょうか。自社またはブランドを体現するバーチャルキャラクターという存在はすでに様々な企業で取り組みが行われていますが、まだまだ事例は多くありません。ただ、将来AIの発展に伴い当たり前のようにどこでも存在する時代がくると思います。
そうなった際に、AI音声の価値は、顧客のタッチポイントがどこであろうとも一貫したブランド体験を提供できることにあるのではないでしょうか。例えば、米国の『Bank of America』ではAIバーチャルアシスタントとしてEricaが導入されており、ウェブサイト、アプリ、またはコンタクトセンターのいずれを利用する場合でも、同品質レベルのAI音声サービスを体験することが可能になっています。このような取り組みがまさしくブランディングのカギとなるでしょう。
メタバースではAIバーチャルキャラクターに実体が描写されるので、さらに満足度の高い顧客体験を提供してくれるはずです。
- 自動化されたセールスインタラクション
2022年の『Deloitte』の調査では、小売企業の83%が従業員の雇用と維持が主な投資であると答えたそうです。メタバースは国境のボーダーという概念がないシームレスな空間なので、世界中の人口に対応できる数の店舗スタッフを用意する必要があります・・・・・・が、そんなことは無理ですよね。
メタバースならではの課題となりますが、バーチャル店舗で実際の販売員を配置することは現実的ではないので、AI音声によるボイスボットや前述のAIバーチャルアキャラクターを活用する必要があるはずです。
- 一対多数のカスタマーサービス
メタバースを活用することで小売企業はグローバル市場へのアクセスが可能になりますが、運営を維持するためには営業やマーケティングと並行してカスタマーサービスを拡大させる必要があります。AI音声では、ウェブサイト、モバイルアプリ、コンタクトセンターなどですでに導入されているので、メタバースでも同様の対応になると予想できるでしょう。
AI音声が乗り越えなければならない壁
とはいえ、AI音声やボイスボットにも限界はあります。簡単な質問で、例えば「配達完了までの時間は?」や「返品方法は?」などの簡単な質問には対応ができるのと思われるのですが、「この製品に使われた技術や製造工程は?」といった、少し複雑な質問は、今の対話型AI音声に回答させるのは困難です。答えられないというわけではありませんが、これらの質問を回答させるだけのデータやコンテンツが不足していると考えられます。従って、メタバース内でのAI音声となると、実物の人間のパフォーマンスと比べるとまだ見劣りする可能性が高いです。
AI音声の実装に向けた課題はシンプルに分けると概ね以下の通りです。
- 音声認識の精度:AI自体がお客様の発言を正確に認識できるのか
- AIのレスポンス精度向上:お客様の問いに満足できる答えを提供できるか。
メタバース内のAIに実体が伴うとすれば、ユーザーの誰もが人間と同等レベルのレスポンスを期待するでしょう。故に、課題が明白ですね。
自然言語生成 (NLG)のAIは進化していますが、まだまだ発展途上。多種多様な話題について人間のように会話を続ける準備はまだ整っていません。コンタクトセンターなどでは、対話型AI音声が要点を開設したり、事前準備されている回答を参照し、UIを介して会話そのものをフォーマット化したりすることで、どうにか違和感を軽減しているのが実態かと思います。
また、メタバースではビジュアル面でもバーチャルアバターの目はどこを見ているか?どんな表情か?身振り手振りはどうか?といった、外観の問題もあります。
要するに、メタバースでの購買体験に向けたAIバーチャルキャラクターはまだ黄金期を迎える準備が整ってないということになるのですが、対話型AI音声のクオリティーが著しく進化する時代がくればメタバースでのアバター化も期待できると信じています。
終わりに
メタバース内でAIバーチャルキャラクター活用する場合は、リアルでの実店舗で受ける接客と同程度にAI自体のクオリティー担保が重要です。現段階ではボイスボットやチャットボットは人間と同じような再現性を持たすことよりも、一次受けの課題解決にベネフィットを置いているので極端にいえば人間のような再現性は求められていません。
一方で、メタバースでは没入感やリアル以上の利便性という点が求められますから、前述の概念が反転します。従って、AI音声はメタバース内の顧客接点において非常に重要な役割を果たす可能性が高く、メタバース内での販売戦略においてサウンドブランディングという概念がより顕著に表れ、各店舗やブランドの差別化に直結するのではないかと思います。
さて、随分長くなってしまい恐縮ですが、以上でメタバース内でのAI音声に関する考察を終えたいと思います。
引き続き様々な視点からAI音声に関するお話を提供してまいりますので次もお楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
なお、ReadSpeakerでは企業様やサービス・ブランド独自のAI音声の開発が可能です。一生色あせることのない、普遍的な声による新たな顧客体験を創造したいというニーズがありましたら是非ともご相談ください。お待ちしております。
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