開発者×ユーザー鼎談で見えた「ReadSpeaker」の魅力
2023年8月25日 gamebusiness.jp掲載 記事全文はこちらから
2023年3月20日、Twitter(現名称はX、本稿ではTwitterと表記)で、ある投稿が大きな話題を呼びました。
Nintendo Switchでリリースされた『カブトクワガタ』は、日本のゲームアクセシビリティにおける革命である
――そう高らかに声を上げたのは、全盲のソフトウェア開発者である「猫(@nyanchan2013)」こと野澤幸男氏(以下、猫氏)でした。
カブトムシとクワガタムシを愛する少年を主人公とする甲虫冒険RPG『カブトクワガタ』は、HOYA株式会社によるTTS(Text to Speech/音声合成によるテキスト読み上げ機能)「ReadSpeaker」を導入しており、ゲーム中のテキストや文字情報をリアルタイムで読み上げます。
今回、『カブトクワガタ』の音声読み上げ機能に関する記事が話題となった猫氏と、同作の開発者である植村比呂志氏、高橋剛氏に鼎談していただき、ビデオゲームにおけるアクセシビリティの重要性と未来について、ユーザー、開発者それぞれの目線からお話しいただきました。
ReadSpeakerでゲーム画面に映るすべての情報を音声化
――まずは簡単な自己紹介をお願いします。
植村比呂志氏(以下、植村):ゲームクリエイターの植村です。かつてはセガに所属しており、今回同席している高橋さんと一緒にトレーディングカードアーケードゲーム『甲虫王者ムシキング』を手がけました(2003年リリース)。
当時、月刊コロコロコミックの編集長だった和田誠さんともご縁ができて、3年ほど前に和田さんから「もう一度、虫のゲームを作りませんか?」とお声がけいただいたのが『カブトクワガタ』の開発につながりました。本作ではディレクターを務めています。
――猫さんも自己紹介をお願いします。
猫氏(以下、猫):全盲のソフトウェア開発者、猫といいます。現在は金融システムの開発に携わっています。独学でプログラミングを学び、10歳の頃から趣味でゲームを作っているので、ゲーム開発者歴は16年ほどになります。近年は、ビジュアルを必要とせず音だけで楽しめるゲームの可能性を追求する試み「オーディオゲームセンター」にも携わっています。
『カブトクワガタ』の読み上げ機能に関する記事が話題となった猫氏。自身もゲーム開発に取り組んでいる。
――ありがとうございます。それでは本題に入らせていただきます。2023年3月20日、猫氏がTwitterで投稿した『カブトクワガタ』に関する投稿がネット上で大きな話題を呼び、植村氏の耳に届くまでになりました。どのような経緯で投稿するに至ったのでしょうか。
猫:『カブトクワガタ』は3月15日にリリースされるやいなや「カオスなゲームが出たぞ」とTwitterでトレンドワードになり、私もすぐに知るところとなりました。
プレイ動画をチェックしてみると、キャラクターのセリフのみならず文字入力インターフェースでカーソルが指している文字なども読み上げていることに気が付き、すぐに購入しました。
私は視覚障害がありますので、起動したゲームをタイトル画面からスタートさせるだけでも大変なのですが、『カブトクワガタ』はそこでもテキストを読み上げてくれるのでスムーズに始められました。それを確認した瞬間、「これは記事にしてブログで公開しなければ」と思いましたね。
――その記事が、瞬く間に話題となりました。
猫:バズるだろうとは思っていましたが、予想を超える勢いでした(笑)。そして、よい意味で話題になれば化学反応も起こるというもので、このような鼎談の場まで用意していただいて……。今日という日を、とても楽しみにしていました。
――『カブトクワガタ』に実装されているテキスト読み上げ機能が、アクセシビリティの観点からどのように優れていたかをあらためて教えてください。
猫:アイコンとして画面に表示されている情報などもすべて読み上げてくれたり、プレイヤーが虫を捕まえるパートでは自由に動かせるカーソルが虫に重なると音が鳴ってくれたりと、「画面に映るすべての情報を音声化する」ことの意味を分かってくださっている方が制作しているのだとすぐに分かりました。
そのおかげで、私が普段プライベートや仕事で使用している画面読み上げソフトと比べても、なんら遜色のない快適さでプレイできました。
――植村さんと高橋さんは、猫さんが受けた感動についてどう思われましたか?
植村:実は、ReadSpeakerの採用は視覚障害をお持ちの方に向けての施策ではなかったんです。順を追って導入の経緯をお話します。
私がかつて手がけた『甲虫王者ムシキング』は、まだ漢字をあまり読めない未就学の子供たちも大勢遊んでくれたゲームでしたので、後年にニンテンドーDSで発売した『甲虫王者ムシキング グレイテストチャンピオンへの道2』で他社の音声合成エンジンを組み込むことにしました。音声で読み上げれば、読めない字があっても情報が伝わりますからね。
その試みがユーザーさんに大きく評価されましたので『カブトクワガタ』でも継承するべきだと考え、今回はHOYAさんのReadSpeakerを採用するに至りました。その後、猫さんの記事を拝見して、アクセシビリティの面でも大きな意味があったとようやく気付きを得た次第です。
猫氏の記事は、すぐに開発者の2人の目にも届いたという。
高橋:私も同時期に猫さんの記事を拝見し、感激しました。アクセシビリティのことはもちろん、一般のユーザーの方ではなかなか実感しづらい「音声合成ソフトがゲームに組み込まれているのは、実はすごいことである」ことにも言及していただけているのが嬉しかったです。
日本のゲームにおけるアクセシビリティの現状と展望
――一部のタイトルをのぞけば、個々のゲームソフトにおけるアクセシビリティはまだまだ発展途上にあると言えると思います。みなさんはそんな現状をどのように捉えていますか。
植村:私は『カブトクワガタ』をあらゆる年齢の方に遊んでほしくてテキスト読み上げ機能を搭載したので、そういう意味でももっと合成音声を組み込んだゲームが増えていいと思っています。
しかし、『カブトクワガタ』では「読み上げ機能をオフにできればもっとよくなるのに」というご意見も見られ、もしかしたら健常者の方のなかにはアクセシビリティをノイズのように感じている人もいるのかもしれないと気付きました。
まだ読めない字が多い小さな子供や、視覚に障害をお持ちの方のことを私たちになぞらえて考えると「ゲーム内の文字が架空の言語で書かれている」ようなものですよ。それを日本語で読み上げてくれるのですから、私にとってはオンオフを切り替えられるようにすることは考えられませんでした。
高橋:開発者の視点で見ると、アクセシビリティを考慮したゲームを作るのは工数の面で厳しいと思っている方もいるかもしれませんが、実装するのはそこまで手間ではありませんでした。『カブトクワガタ』は少人数体制のインディーゲームですしね。
またアクセシビリティとは異なる観点ですが、ReadSpeakerのTTSを採用することで、全てのセリフを声優さんに読み上げてもらうのと比べて、制作時間にかなりのゆとりを持てるのは明確なメリットとして押さえておくべきことだと思います。
猫:「全盲の自分もゲームで遊べたら」という一心で、これまでにさまざまなゲームを試してきました。2020年に発売された『The Last of Us Part II』を皮切りにアクセシビリティに配慮されたゲームソフトも増えつつあります。
しかし、それまでは「メニュー画面の項目の順番を覚える」、「ボタンを押す回数を記憶する」、「キャプチャーボードでゲーム画面をPC上に表示させ、画像認識ソフトで読み上げる」など、さまざまなハックを駆使した結果、なんとか遊べるゲームが数本見つかったら御の字、というレベルでした。
『カブトクワガタ』がReadSpeakerのTTSを導入したのは小さな子供たちのためだったとのことですが、きっかけはどうあれ、結果的にブラインドアクセシビリティにも優れたゲームが日本から出たことの意義は大きいと思います。
猫氏は、『カブトクワガタ』の優れたアクセシビリティを熱く語ってくれた
全盲ユーザーのプレイスタイルに見るアクセシビリティ導入の課題
――ゲームクリエイター、アクセシビリティ機能のユーザーというそれぞれの立場から、お互いに質問してみたいことはありますか?また「合成音声機能と相性がいいジャンル」というものはあるでしょうか?
植村:やはりスポーツ、競馬などの実況をともなうゲームでしょうか。合成音声ならリアルタイムで変わっていく状況を逐次読み上げられるので、相性がいいと思います。
高橋:テキスト要素が中心となるゲーム全般ですね。クイズゲームなども相性がいいと思います。
猫:お二人に同意です。トレーディングカードゲームは読み上げ音声に感情を込める必要もないので、特に相性がいいジャンルだと思います。
ReadSpeakerはアクセシビリティに優れたゲームを実現させる
――HOYA社は、SwitchのゲームソフトにReadSpeakerを組み込むSDKを2021年11月15日から提供していますが、認知度にまだ課題が残るという認識をしているそうです。
ReadSpeaker、Nintendo Switchゲーム開発用SDKをリリース
――ReadSpeakerは、2023年末を目途にしたアップデートが予定されており、感情がさらに豊かなものになるそうです。猫さんはいかがですか?
猫:私は普段仕事をする時にも音声読み上げソフトを使用していますが、音声が早くないと仕事のペースを上げられませんので、最大設定のさらに6倍速で再生するんです。
感情表現が豊かになるのも嬉しいですが、私はレスポンスの速さと聞き取りやすさを重視することも必要だと思います。
――感情表現とレスポンスのトレードオフが起きないように発展させていくことが重要になりそうです。最後に、ReadSpeakerをゲームに導入しての感想や魅力をあらためて教えてください。
植村:ReadSpeakerはレスポンスが早く、アナウンサーのように流ちょうな日本語で読み上げてくれるのが魅力です。
喜怒哀楽の表現にはまだ発展の余地がありそうですが、見方を変えればゲームのルール説明など、感情を必要としない局面では非常に高いクオリティで応えてくれます。『カブトクワガタ』は近日のアップデートで虫1匹1匹に名前を付けられるようになる予定で、虫の名前もReadSpeakerがきちんと読み上げてくれます。さらに愛着がわくと思いますので、楽しみにお待ちください。
高橋:今も進歩し続けているのが同じ開発者として嬉しいし、ありがたいです。ReadSpeakerは「777」と入力するだけで「ななひゃくななじゅうなな」と読んでくれるなど使い勝手がとてもいいので、作る側としても本当に助かっています。
猫:私はあくまでユーザーとしてですが、Switchのゲームソフトに組み込まれたReadSpeakerが、あれほどのレスポンスの速さで問題なく動いている事実に感動しました。『カブトクワガタ』とReadSpeakerに、本当にありがとうという気持ちでいっぱいです。
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全盲の猫氏が楽しくプレイできたと笑顔を見せた『カブトクワガタ』。合成音声導入のきっかけはまだ漢字が読めない小さな子供たちのためとのことでしたが、キャラクターのセリフを読み上げさせるに留まらない細やかな気配りは、ゲームのアクセシビリティにおける音声合成の可能性を見事に示したといえます。
アクセシビリティの概念は海外でゲームの領域にとどまらず法整備が着々と進んでおり、遠くないうちに日本も歩みを合わせるであろうことは想像に難くありません。さまざまな人が同じ労力でひとつのゲームを楽しめるための土台作りとして、ReadSpeakerは大きな力となるのではないでしょうか。
グローバルブランドとして世界展開するHOYA株式会社の音声読み上げソフトウェア「ReadSpeaker」は、44言語以上の多言語展開、肉声のような感情表現、様々なシーンに対応可能なカスタマイズ性、ユーザーに寄り添う徹底したテクニカルサポートを掲げ、ゲーム開発はもちろん、電話の自動応答、機器への組み込み、デジタルコミュニケーションなど、世界中のさまざまなシーンで活用されています。
ゲーム開発用途としては、Unity、Unreal Engine両対応の合成音声を提供するプラグインがコンソールの各プラットフォーム向けにリリース予定であるほか、最新バージョンの無料トライアルも提供中です。ご希望の方は是非こちらからダウンロードしてお試しください。
他にも、ゲーム開発に最適な音声合成(TTS)サービスを多数ご用意しています。詳しくは詳細はReadSpeaker公式サイトをご確認ください。
「ReadSpeaker」について
「ライフケア」「情報・通信」の分野で、国内外トップクラスのシェアを多数持つHOYA株式会社の事業ブランドのひとつで、AIを使った音声合成, 人工音声ソリューションを開発しています。20年以上前から音声合成ビジネスを行っており、日本国内では大手企業をはじめとして1,700社以上、グローバルでは10,000社以上にご利用いただいています。
ReadSpeaker サービスサイト:https://readspeaker.jp/
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